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欧州統一特許裁判所で勝つのは誰か:2年間の審理実績が示す明確なシグナル

欧州統一特許裁判所で勝つのは誰か:2年間の審理実績が示す明確なシグナル

統一特許裁判所(UPC)運用開始後2年間を分析する本ブログシリーズも、いよいよ最終回となりました。今回は、十分に蓄積された侵害訴訟の実体審理を分析し、各地方部による侵害や有効性に対する判断の傾向を明らかにします。Darts-ipの訴訟データを使用して、2024年および2025年(5月31日まで)に出された実体審理を分析すると、UPC全体では特許権者が勝訴した割合は54.2%となっています。しかし、この全体の統計を一見しただけではわからないのが、各地方部間の結果とスピード両面における大きな差異です。

「運用2年目のUPC」分析シリーズの締めくくりとなる本記事では、勝訴率を詳しく分析し、各地方部の動向を掘り下げるとともに、今後のUPC訴訟戦略における意味を明らかにします。

連載ブログ「運用2年目のUPC」シリーズの過去2回の記事:

特許権者の勝訴率:全体の変動は少ないが地方部間には大きな差異

UPCの運用開始後2年間に下された36件の実体審理において、特許権者の勝訴率は54.2%であり、年ごとの変化はそれほど大きくありません(2023年6月~2024年5月:57.9%、2024年6月~2025年5月:52.4%)。

しかし、この全体に対する数字の裏で、主要地方部間には大きな差異が存在します。最も高い勝訴率はミュンヘンの71.4%で、デュッセルドルフの60.0%、マンハイムの50%と続き、最も低いのはパリの33.4%です。

図1:UPC運用2年目における地方部ごとの特許権者の勝訴率

結果がこれほど異なる理由

もう少し分析を進めると、UPC訴訟データから注目すべき2つのパターンが見えてきます。ミュンヘン、マンハイム、パリでは、特許権者の敗訴はすべて特許が無効とされたことが原因でした。つまり、侵害の有無についての判断には至っていません。一方、デュッセルドルフでは、敗訴の理由が分かれており、20%が特許無効、他の20%が非侵害(特許は維持)でした。

このデータから、特許権者にとって重要な示唆が得られます。UPCの中で、特許無効のリスクは均一ではないということです。

スピードの重要性:パリは実体審理の最速ルート

さらに勝訴率データを分析すると、すべての地方部が同じスピードで動くわけではないこともわかります。実体審理に要する期間の中央値(Median duration)を見ると、最も速い地方部と最も遅い地方部の間には3か月近い差があります(図2)。パリは、勝訴率は最低ですが、実体審理のスピードは最速です。マンハイムは、勝敗はほぼ拮抗しており、スピードは最下位です。

原告にとっては、このスピードの違いが、権利行使のタイムライン、差止請求の圧力、ポートフォリオ戦略に大きく影響する可能性があります。

図2:運用2年目におけるUPC地方部ごとの実体審理期間(中央値)

まとめ:3年目に向けた戦略的示唆

UPC運用開始後2年間について、データに基づく多くの傾向が明らかになりました。これらを総合すると、特許権者や被告がUPC訴訟にどう臨むべきかを示す、より明確な指針が浮かび上がります。データから得られた指針をまとめると以下のとおりです。

  1. フォーラム選択がこれまで以上に重要となる

特許権者の勝訴率は、ミュンヘンの71.4%からパリの33.4%まで大きな幅があることから、フォーラム選択によってリスクが大きく変わる可能性があります。特許権者から見ると、現時点ではミュンヘンが実体審理に関して最も有利な状況を呈しています。一方、被告の立場で注目すべきは、パリやマンハイムは特許権者の勝訴率が比較的低い点です。

  1. 予備的差止命令(PI)申立の結果からのインサイトは、各部間の次のような重要な違いを示している
  • スピードを重視する場合:ハーグのPI決定期間が最速(中央値91日で、最長の拠点より52日短い)。
  • 認容率を重視する場合:ミュンヘンのPI申立認容率が圧倒的に高い(55.6%)。

特に緊急性、リスク許容度、裁判地の特徴を踏まえて、PIと本案の戦略を早期に整合させることが、案件の流れを大きく左右します。

  1. リスク評価の際には技術分野の構成を考慮する

UPCにおける侵害訴訟の大半を占めるのが、デジタル通信、医療技術、電気通信です。これらの分野は、複雑性や訴訟価値が比較的高い紛争が多く、PIが積極的に活用される傾向にあります。自社の技術分野がUPCの訴訟環境の中でどのような位置づけにあるかを理解することは、相手方の行動、審理スピード、適切な専門性を持つ地方部を見極めるうえで役立ちます。

  1. 想定期間をUPCの実績に基づいて調整する

実体審理に要する期間は地方部によって異なり、408~490日です。UPCの実体審理タイムラインが非常に効率的なのは事実ですが、今回のデータから、地方部ごとに有意な差があることも明らかになりました。

  1. 訴訟データは戦略的差別化要因になり得る

提起状況、技術分野、予備的差止命令申立の結果、実体審理結果、審理期間、無効判断の傾向に関する高品質なUPC分析データを活用できる訴訟当事者は、以下においてより有利な立場に立てるでしょう。

  • 適切な地方部・地域部の選択
  • 戦略の予測
  • 想定期間・リスクの調整
  • より有効な権利行使時期の見極め

Darts-ipの訴訟インテリジェンスについて、詳しくはこちらをご覧ください。

分析手法

本分析は、Darts-ipの特許訴訟データベースを使用し、2023年6月1日から2025年5月31日までのUPCの訴訟判断を対象としています。本分析結果は、判例の蓄積に伴って今後変更される可能性があります。

著者について

Eric Sergheraert

薬学博士(PharmD)および法学博士(PhD)の学位を有し、フランスの弁護士適格証明(CAPA)ならびにストラスブール大学国際知的財産研究センター(CEIPI)の特許ディプロマを取得しています。知的財産分野で27年の経験を持ち、Macopharma Pharmaceutical Laboratoryの知的財産部門のほか、知的財産コンサルタント会社のEGYPや、Véron & Associés法律事務所で勤務しました。現在はリール大学(フランス)の教授であり、クラリベイト傘下の国際的知財判例データベース企業Darts-ipにおいて、訴訟コンテンツ戦略のディレクターを務めています。

Neşe Günal

クラリベイトのシニアマネージャーとして、法務関連コンテンツ分析に従事するグローバルチームを統括し、世界各地の特許出願および訴訟の動向を観測するとともに、Darts-ipにおける特許関連のキュレーションプロジェクトを管理しています。ルーヴェン・カトリック大学で知的財産およびICT法の修士号を優等位(cum laude)で取得しています。

 

当ブログ記事は2026年4月16日にグローバル公開したものを日本語に翻訳再編集(一部追記を含む)したものです。オリジナルは原文(英語)をご参照ください。本資料の正式言語は英語であり、その内容・解釈は英語が優先します。

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