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運用2年目の欧州統一特許裁判所:データが示す実像

運用2年目の欧州統一特許裁判所:データが示す実像

運用開始から2年が経過し、統一特許裁判所(UPC)は、国境を超えた特許権利行使を扱う欧州唯一の法廷としての役割を確立しました。実験的な試みとして始まったUPCも、今やその有効性が試される場となり、欧州全体の訴訟戦略を左右する存在になりつつあります。参加する欧州連合(EU)加盟国における欧州特許・単一特許の紛争解決を簡素化する目的で設計されたUPCですが、その初期段階からすでに明確な利用傾向が見えてきています。具体的には、どこで事件が提起されているか、当事者がどのように予備的措置を求めているか、どの地方部・地域部が戦略的拠点として台頭しているか、といった点です。

私たちはDarts-ipの特許訴訟データを使用し、提起の勢い、フォーラム選択の動向、初期の訴訟行動について、運用2年目に明らかになってきた点を詳細に調査しました。以下に、提起件数の着実な増加、ドイツの継続的な優位性、注目すべき重要拠点としてのハーグの台頭など、インサイトを詳しく紹介します。

運用1年目の訴訟言語・代理人の傾向(背景情報)

UPC運用1年目(英語レポート)を振り返ることで、2年目の傾向を理解するための有用な背景情報が得られます。まず訴訟言語に関しては、英語が最も一般的で、全事件の半数近く(49.8%)で使用されました。それに僅差(43.5%)でドイツ語が続きました。これは、UPCが多言語で運用されており、域内外双方の当事者に強い訴求力を持つことを示しています。

また代理人に関しては、ごく少数の法律事務所に訴訟案件が集中していました。上位10事務所で全事件の70%以上を、さらに上位5事務所だけで半数を占めていたのです。このことから、UPCにおける初期の手続運用上・法解釈上の傾向は、限られた数の経験豊富な代理人によって形づくられたことが浮き彫りになります。UPCが成熟していく中で、今後もこの事実が戦略的判断に影響を与え続ける可能性は高いと考えられます。

提起件数の増加:着実なスタートから侵害訴訟の本格的増加へ

図1aと図1bを見ると、UPCの2年目の提起件数データから、件数の増加は直線的ではないものの、制度が定着しつつあることがわかります。UPCにおける侵害訴訟(infringement)の提起件数は、2年目に31.8%ほど増加し、月平均で1年目の約12件から約15件へと伸びています。月ごとの件数にはまだばらつきがあるものの、全体的傾向としては、利用者の間で定着が進み、信頼感も高まっています。それと並行して、反訴や各種申立を含めた活動全般も増加しました。侵害訴訟に付随した取消の反訴は、1年目には侵害訴訟の47.1%(138件中65件)と約半数でしたが、2年目には59.3%(182件中108件)に伸びています。この割合が比較的低い背景には、おそらく、UPCの迅速化されたタイムラインのもとで、被告が防御策を構築するうえでの実務的課題に直面しているためです。つまり、提起は訴状送達から2か月以内、結審まで通常約1年という過密なスケジュールでは、複雑な反訴を構築する余裕がほとんどないのです。

Figure 1a: Number of actions filed during UPC’s first year

図1b:UPC運用2年目に提起された手続の件数

地方部・地域部の活動:ドイツの継続的な優位性

図2aと図2bは、1年目と2年目までの各地方部・地域部における手続件数を対比しています。ここから、ドイツの地方部がUPC訴訟の中心的存在であり続けていることがわかります。ドイツの地方部を総合すると、地方部・地域部における手続総数で高い比率(侵害訴訟(infringement)については76.8%)を占め、中でもミュンヘンは一貫して首位となっています。1年目には、ミュンヘンが全侵害訴訟の38%ほどを取り扱い、デュッセルドルフとマンハイムがそれに続きました。ミュンヘンは、反訴や予備手続についても首位を確保しています。

2年経過時点においても、ミュンヘンは首位を維持していますが、提起件数が他の地方部へとやや分散していることを反映し、占有率は34.5%とわずかに低下しています。デュッセルドルフとマンハイムも上位を維持しており、ハンブルクの活動も活発化しています。このように一部地方部への集中が続いていることから分かるように、ドイツの各地方部が有する経験と効率性は、戦略的なフォーラム選択を後押ししています。また、原告は被告の所在地、侵害の発生地、当事者間の合意に基づいて地方部・地域部を選択でき、UPC内でのフォーラムショッピングが依然として可能であることが見て取れます。

こうした傾向は、企業の法務担当者や訴訟担当パートナーにとって、ドイツは引き続きUPC下の主要な戦場であり、権利行使戦略を策定するうえで極めて重要な「予測可能性」をもたらす存在であることを意味します。

図2a:UPC運用1年目における地方部・地域部ごとの手続件数

図2b:2年経過時点までの地方部・地域部ごとの手続件数

ハーグ(オランダ)の台頭:ドイツ以外の注目すべき地方部

ドイツの地方部が圧倒的な優位性を維持する一方で、UPC運用2年目には注目すべき変化が見られました。ハーグがパリを抜き、ドイツ以外の地方部・地域部で首位となったのです。2年経過時点で、ハーグは21件の侵害訴訟(infringement)を含む28件の手続を処理し、手続総数および侵害訴訟件数の両方で地方部中第5位となりました。

この台頭は、ドイツ以外の選択肢を求める世界中の当事者の間で、ハーグの地方部としての信頼性が高まっていることを反映しています。英語での手続に慣れていること、国境を越えた複雑な紛争を効率的に処理できることなどが要因と考えられます。ドイツ各部がいまだに侵害訴訟の約77%を占める一方で、ハーグがトップ5に入ったことは、フォーラム選択が単なる手続面の問題ではなく、ますます戦略的なものになっていることを示しています。

ハーグは、ドイツ以外の地方部として注目すべき存在です。UPC訴訟を検討する当事者は、ドイツの裁判所以外にも信頼できる選択肢を手に入れました。これにより、フォーラム選択は、提起時期、訴訟言語、合議体の構成を戦略的に組み立てるための重要な手段となっています。

実験的試みから権利行使戦略実行の場へ

このような訴訟データに実際の知財戦略が反映されていると捉えれば、UPCはもはや「実験の場」ではなく、欧州全域の国境を越えた権利行使の結果を左右しうる「戦略的な法廷」へと変貌を遂げたことは明らかです。データは、提起件数が増加していること、ドイツ各部の圧倒的優位が続いていること、ハーグがドイツに代わる信頼できる選択肢として台頭してきたことを示しています。

もう一つの注目すべき傾向は、UPCと既存の訴訟との併用のされ方です。1年目には、多くの原告が、進行中の紛争における追加的な戦略手段としてUPCを利用しました。相手方に圧力をかけ、和解を促進するためです。しかし、2年経過時点では、その動向に変化が見られます。UPCの侵害訴訟の対象となった特許のうち、それ以前からUPC外で係争中であり、並行して争われることになったケースは大幅に減少しました。これは、UPCがもはや単なる副次的な戦場ではなく、権利行使戦略の出発点としてますます重要になっていることを示唆しています。

企業の法務担当者や訴訟担当パートナーにとっては、今やフォーラム選択、提起時期、訴訟戦略が、実質的な結果を左右しているということです。

適切な地方部・地域部を選択できるかどうかで、成功率(侵害訴訟の勝訴率、予備的差止命令の認容率など)のほか、訴訟言語、当該技術分野に関する裁判官の専門性、訴訟タイムラインが大きく変わってきます。同様に、提起の時期をいつにするか、つまり初期の判例を待つべきか、あるいは戦略的優位性を確保するために迅速に行動すべきかという判断も、権利行使の結果に大きく影響します。

要するに、UPCは実験的試みの場から実証を経た舞台へと移行したのです。データに基づくインサイトをフォーラム選択や提起時期の決定に活かせるステークホルダーこそが、欧州の特許訴訟において競争優位性を獲得することになるでしょう。

データについて

対象期間:2023年6月1日~2025年5月31日

  • ソース:Darts-ipの特許訴訟データベース(英語レポート)
  • 対象範囲:本案訴訟および予備的措置を含むUPCで提起されたすべての手続(各手続を個別に集計)
  • 集計ルール:各地方部・地域部で提起された手続を重複なく月次で集計し、時期や裁判地によらない一貫した形で提起動向を把握できるようにする

関連リソース

以前の状況の振り返り:Compare to the UPC’s inaugural year patterns.(英語レポート)

当ブログ記事は2025年11月7日にグローバル公開したものを日本語に翻訳再編集(一部追記を含む)したものです。オリジナルは原文(英語)をご参照ください。本資料の正式言語は英語であり、その内容・解釈は英語が優先します。

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