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欧州統一特許裁判所で争われているものとは:技術分野の動向

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運用開始から2年が経過し、統一特許裁判所(UPC)では、「どこで訴訟が起きているか」だけでなく、「どのような技術が紛争の種になっているか」も明らかになりつつあります。私たちはDarts-ipの訴訟データを使用し、2023年6月から2025年5月までのUPCの侵害訴訟において、どのような技術・産業分野が対象となっているかを分析しました。そこから浮かび上がってきたのは、電気工学分野とその中で特に情報通信技術(ICT)分野の占有率がますます上がっている事実、表面上は目立たない製薬分野、地方部・地域部ごとの専門性の違いでした。

電気工学分野が圧倒的首位

図1が示すとおり、電気工学分野(Electrical Engineering)の侵害訴訟件数が大幅に増加した一方、機械工学分野(Mechanical Engineering)と化学分野(Chemistry)の件数は控えめな増加にとどまり、測定計測機器分野(Instruments)の件数は減少しました。

分野別の構成比を見ると、電気工学分野は1年目・2年目を通してUPC訴訟における圧倒的首位を維持しており、その優位性は拡大しつつあります。2年目には、全侵害訴訟の43.8%が電気工学分野の技術に関するものとなり、1年目の39.8%からさらに上昇しました。機械工学分野の割合は小幅に増加(16%から18%)した一方、機器分野と化学分野の割合は減少(それぞれ、22.6%から15.2%、13%から12%)しました。

この変化は、紛争がハイテク産業関連分野に徐々に集約されつつあることを示唆しています。特に動きの速い産業分野において、UPCの複数管轄区域にまたがる複雑な権利行使を処理する能力が企業によって試されており、こうした傾向が顕著になっています。

図1:UPC運用1年目と2年目の侵害訴訟における技術分野の動向

ICT:電気工学分野内での変化

電気工学分野の中の下位分野としては、ICT(デジタル通信(Digital Communication)、電気通信(Telecommunications)、コンピューターテクノロジー(Computer Technology)、音響・映像技術(Audio‑Visual Technology)を含む)が引き続き最大です。しかし、その比率は1年目の38.5%から2年目にはわずかに低下し、35.4%となりました。電気工学分野内の下位分野の構成には変化が見られます。2年目には、ICTの比率が微減した分、他の下位分野(特に電気機械・装置(Electrical Machinery and Apparatus)と半導体(Semiconductors))で提訴が増加しています。

図2:UPC運用1年目と2年目の侵害訴訟における下位分野別技術動向

製薬分野のパラドックス

一見すると、UPCにおける製薬分野(Phamaceuticals)の訴訟は多くありません。IPCクラスA61K(A61K-008を除く)という狭い定義で捉えると、製薬分野は2年目の侵害訴訟のわずか3.8%を占めるに過ぎず、1年目の5%からも減少しています。

しかし、製薬分野をより広く捉えると話は変わってきます。対象を(医学または獣医学;衛生学)まで範囲を広げ、主に医薬品(Phamaceuticals)や医療機器(Medical technology)を含めると、このカテゴリーの比率ははるかに大きくなり、2年目の訴訟の15.1%を占めるのです。これは、1年目の15.9%からは微減しているものの、UPCにおける製薬分野の活動をより実態に即して評価した値と言えます。

この「製薬分野のパラドックス」は、特許分類の定義が狭い場合、製薬分野の実際の活動規模が見えにくくなります。同時に、医療機器分野の存在感が増していることも示しています。

訴訟価値に関するインサイト:化学分野

訴訟件数の比率は小さいものの、化学分野はその訴訟価値の高さで際立っています。「件数が少ない」と「価値が高い」という組み合わせを持つ化学分野の存在には、UPCにおける影響力は件数だけでは測れないという事実を再認識させられます。

図3:UPC運用1年目における分野別の訴訟価値(合計・平均)

ミュンヘンからミラノまで:地方部・地域部ごとに異なる重点技術

UPCの運用開始から2年間を見ると、電気工学分野が提訴件数で圧倒的首位を保っている一方、製薬や化学のような分野では、複雑で訴訟価値の高い紛争がUPCの処理能力を試し続けています。

化学、電気工学、機器、機械工学の各分野の訴訟が占める比率に基づいて、主要UPC地方部が持つ技術分野の専門性に注目すると、以下のような特徴が見えてきます。

  • マンハイムとミュンヘンは電気工学分野への集中度が高く(それぞれ67.4%と60.6%)、これらの管轄区域で提起された全侵害訴訟の約3分の2を占めている。
  • デュッセルドルフ、ハンブルク、パリでは、各技術分野がおおむね均等に分散している。
  • ハーグもほぼ同じ傾向だが、機械工学分野の侵害訴訟の比率だけ極めて低い(4.2%)。
  • ミラノは対照的に、電気工学分野の活動比率が他の地方部と比べて非常に低く(15.8%)、機械工学分野への集中度が高い(63.2%)。

知財権所有者にとっては、フォーラム選択の際に、訴訟手続期間や成功率などと並んで、技術的専門性が戦略的にますます重要になっていることを意味します。ミュンヘンやマンハイムのように電気工学分野の訴訟を多く扱う地方部は、その分野の専門性について急速に評判を高めています。一方、ミラノやハーグをはじめとする他の地方部も、それぞれ独自の特色を示しています。このような変化し続ける動向を把握することが、権利行使戦略に合わせてポートフォリオのリスクを調整するための鍵となります。

分析手法

本分析は、Darts-ipの特許訴訟データベースを使用し、2023年6月1日から2025年5月31日までの間に提起されたUPCの訴訟を対象としています。本分析で用いられているDarts-ip技術分野は、特許が付与された際に特許当局から割り当てられた国際特許分類(IPC)コードに基づいており、必ずしもその特許が適用される産業と一致するわけではありません。IPCコードは、特許当局が発明を技術分野ごとに分類するために使用する標準化された識別子であり、管轄区域をまたいだ一貫性のある技術比較を可能にするものです。1件の特許に複数のIPCコードが割り当てられていたり、1件の訴訟に複数の特許が含まれていたりする場合は、該当する複数の技術分野にカウントされます。

リンク

全体像を再確認するには運用2年目の欧州統一特許裁判所:データが示す実像 をご参照ください。

当ブログ記事は2025年12月8日にグローバル公開したものを日本語に翻訳再編集(一部追記を含む)したものです。オリジナルは原文(英語)をご参照ください。本資料の正式言語は英語であり、その内容・解釈は英語が優先します。

 

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Blog November 7, 2025
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