
ProQuestをご活用中の研究者を訪ねたインタビューをご紹介します。
「どのようにして宗教が途中で変わるのか」
Prof. Yumi Sugahara at International Studies Library. Photo: Saori Tanaka/Clarivate
大阪大学人文学研究科の菅原由美教授は、インドネシアを中心とするイスラム化の歴史を研究しています。
インドネシアのジャワはヒンドゥー・仏教王国が7世紀から長い伝統を持っていましたが、16世紀を境にイスラム教が入り、長い時間をかけて徐々にイスラム教徒が増えつづけ、今ではその数はインドネシア国民の9割近くに上ります。
「どのようにして宗教が途中で変わるのか」。この問いの答えを見つけるために、菅原教授は数十年にわたり、オランダ語・ジャワ語・マレー語のレンズを通して文献学的研究を続けています。
イスラム教はキリスト教・ユダヤ教とともに世界三大宗教の一つ。時事ニュースから注目されることの多い宗教です。一方で、イスラム化が起こる詳細な過程は十分に解明されていません。
菅原教授が研究対象とする国は、インドネシア。この国のイスラム化の過程はダイナミックで、人間の宗教が形を変えて継承されていく道のりとして、ひとつの事例を提示しています。
インドネシアがオランダの植民地となったのは19世紀初頭。オランダ人たちはヒンドゥー時代のジャワ伝統をエリート達に復活させようと考えていました。オランダの西洋教育を受けたエリートたちの層が存在したことから、長い間「完全にイスラム化しない国」と言われていました。
Prayers at the Grand Mosque in Jakarta, Indonesia. Photo courtesy of Prof. Yumi Sugahara
「多神教のヒンドゥー教と、一神教のイスラム教では、神の観念が全く違うのです」と菅原教授はいいます。「宇宙に遍在する神からやたらと口うるさい神の世界に、どうすると変わっていくのか、今でも一番わからないところです」。
そんな菅原教授が、教育で苦労していることがあります。学生が手元の携帯端末で目にするオンライン空間には、有象無象の文章が広がっています。最近、そうした文章を学習した、生成AIから出力されたと思われる内容が、学生のレポートに潜んでいることが判明しました。同じ講座の教員たちとこの事態を目の当たりにした菅原教授は、学生たちに「じっくり考えて書く」ことを教えたうえで、その能力をどう評価していけばよいか、手探りで見つけようとしています。
大阪大学外国語学部インドネシア語専攻の学生たちは、2年生になると文献リストの作成が求められます。2年生の後期に入ると、最低3本の論文の内容をレビューして、自身の研究テーマとの関連を発表します。「一番知りたいことは何か」。本来の問いと文献との関連性を教員とじっくり議論しながら、学生たちは卒業論文を仕上げていきます。
ProQuestが活用される局面は、学生たちが文献リストを作成する場面で最初に訪れます。「さまざまな言語の文献が検索できるということで、ProQuestを使わせています」と菅原教授。検索による文献調査と、さらにキーワードを洗練させて、目的に合致した文献にたどり着く繰り返しの作業を身に着けさせるのが、指導のポイントであるといいます。
「英語はもちろん外国語の文献の文献調査として何が一番役に立っているかというと学位論文です」。どんなテーマでどのくらいの研究がなされているのか、最新の研究動向を知るために、ProQuestで調べた学位論文を中心に、菅原教授は目を通していきます。
地域研究に携わる学生たちの関心は「今」の出来事に偏りつつあるといいます。ほんの数十年前の歴史ですら振り返られなくなっていることから、今をみるだけではなく、少し過去に遡って俯瞰できるように、学生たちに指導しています。
世界のどんな地域においても、長期にわたって文献の蓄積があることで、歴史的観点での研究は加速します。しかし、東南アジアを対象とする研究では、一次資料の入手が困難なことがあります。だからこそ、広く粘り強く資料を調査し、信頼できる典拠に基づいて確かな分析を行う努力は欠かせません。
大阪大学から車で30分ほど走ると、国立国会図書館の関西館があり、アジア研究のための資料が豊富に集積されています。海外からの留学生が多く学ぶ大学院では、毎年出される修士論文や博士論文がこの分野の一翼を担っています。
2018年にインドネシアに関わる様々な分野の人々が集まるプラットフォームとして「インドネシア研究懇話会」が設立され、菅原教授も、運営委員の一人として、業界を超えて飛び込む国際連携など多様な問い合わせにも答えています。
「宗教変化の過程」を追う研究者、学術的文章の指導とAIとの付き合い方を教える教員、さらに相談ごとに答える専門家としての顔をもつ菅原教授。その幅広い活躍を支えるためにProQuestができることはほんの一部かもしれません。ただ、ProQuestを通して今まで以上に多様なリソースを提供し、さらに時間的・地域的にも広く収録を拡張すること、また、学術および研究コミュニティに変革的なインテリジェンスと信頼できるコンテンツを提供し、研究と教育の限界を押し広げることがクラリベイトの使命です。
(敬称略)