ライム病における個別化医療のアンメットニーズ

SHYAMA GHOSH

Senior Science Editor, Clarivate

 

英語原文サイト

本記事は英文ブログを日本語に翻訳再編集(一部追記を含む)したものです。本記事の正式言語は英語であり、その内容・解釈については英語が優先します。

 

ライム病の患者数と合併症の数は増加していますが、現在の治療法では不十分であることがわかっています。クラリベイトのSenior Science EditorであるShyama GhoshとManaging EditorであるStephen DuPrawは、Principal EpidemiologistであるSwarali Tadwalkarと協力して、現在の治療法と新たな治療法を検討し、患者さんにより良いサービスを提供するために何が必要かを考えました。

 

米国では、約3,000万人が希少疾患に苦しんでいます。ライム病は稀な病気ですが、北半球の大部分で流行していると考えられており、他の病気と似た症状を示すこともあるため、「Great Imitator(偉大なる模倣者)」というニックネームが付けられています。世界的に見ると、1990年代以降、ライム病の患者数は最大で320%増加していることが報告されています(Johnson 2020, Johnson 2018)。

 

この記事では、米国におけるライム病に対する現行の治療法(主に抗生物質・抗炎症薬であるダプソン)の使用が限定されていることを示すリアルワールドエビデンスを紹介いたします。ライム病の原因菌であるボレリア菌は、遺伝子変異を引き起こし、多様な表面タンパク質を発現させて多面的な慢性化と症状プロファイルを示すため、現在の治療レジメンでは不十分であると考えられます。この変異により、単一または複数の治療法を組み合わせた個別化医療が早急に求められています。

 

米国におけるライム病の罹患率の高さを示すリアルワールドエビデンス

クラリベイトのReal World Claims Dataの分析によると、毎年、米国では120,000件以上のライム病の新規症例が認められます。これはICD-9およびICD-10コードを用いてライム病と診断されたすべての患者を対象としまし、2016年から2019年までの各年に最初の疾患診断が記録されたライム病症例を確認し分析しました。

 

図1. 米国におけるライム病の新規症例(2016~2019年)

 

出典: クラリベイト Real World Claims Data

 

 

現在の治療オプションは十分に活用されていない

発生率が高いにもかかわらず、当社のクレームベース分析では、2016年から2019年の間に抗生物質が使用されたのは17%に過ぎず、治療率が最も高かったのは2017年の19%でした。NDCコード、CPT、HCPCS、ICD-9、ICD-10プロシージャコードを用いて特定した薬局およびプロシージャの請求記録を用いて、ライム病治療を評価しました。診断されたすべてのライム病患者に対する抗生物質(リファンピン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン)の使用を評価しました。

 

図2. ライム病に対する抗生物質の使用状況(2016~2019年)

出典: クラリベイトReal World Claims Data

 

 

一部の研究で有効性が期待されているものの、ライム病に対するダプソンの使用は一般的ではない

近年、ハンセン病治療薬のダプソンをライム病に再利用する動きが出てきました。結核にも使用されるダプソンは抗炎症薬であり、いくつかのライム研究で有望な有効性を示しています(Horowitz & Freeman, 2019; Horowitz & Freeman, 2018; Horowitz et al, 2020)。当社のリアルワールドデータ製品による分析では、ライム病と診断された患者におけるダプソンの頻繁な使用は見られず、2016年から2019年の期間を含めて治療の割合は1%未満でした。

 

 

 

新しい治療法は、ライム病治療のアンメットニーズにどのように対応していくのか?

慢性的なライム病患者の発生率や合併症の増加に伴い、過去3年間で臨床研究が倍増しています。現在の臨床試験は、抗生物質(85%)とワクチン候補(15%)の両方に焦点を当てており、そのうち約30%は米国で実施されています(図3-5)。しかし、日常的な抗生物質治療にもかかわらず、Johnsonらによるリアルワールドスタディでは、治療を受けた患者の半分しか改善が見られなかったことが報告されています(Johnson 2018)。

 

図3. ライム病研究の国別分布。2017年のデータと比較すると、この3年間で臨床試験が倍増していることがわかった。

 

出典: Cortellis Clinical Trials Intelligence

 

 

図4 ライム病に関する臨床試験の分布 University Medical Centre Ljubljana、Pfizer、Valneva Austria、National Institute of Allergy and Infectious Diseases(NIAID)が、ライム病の臨床試験へ世界的に関与している主なスポンサーおよび共同研究者であることが分かった。

 

出典: Cortellis Clinical Trials Intelligence

 

図5. ライム病のために開発中の抗生物質およびワクチン

出典: Cortellis Clinical Trials Intelligence

 

 

 

個別化治療により治療成績が向上する可能性がある

抗生物質がライム病患者の標準治療であることに変わりはありませんが、MyLymeDataレジストリのデータによると、抗生物質治療を受けた症例のうち、1年後に何らかの改善を報告しているのは51%に過ぎず、34%は治療に対する高い反応性に分類されています。驚くべきことに、37%の患者が状態は変わらなかったと訴え、12%の患者は状態が悪化したと報告しています(Johnson 2018)。

 

米国におけるライム病に対する現在の治療オプションは、当社のリアルワールドデータ分析に反映されているように、ダプソンと抗生物質が十分に活用されておらず不十分に見えます。ダプソンの使用率の低さが、この治療法の非有効性の指標であるかどうかは不明です。米国疾病管理予防センター(CDC)は、優れた治療法がない場合、毎年世界で最大100万件のライム病の新規症例が報告される可能性があると警告しています。

 

当社は、Incidence and Prevalence Database™Cortellis Clinical Trials Intelligence™およびReal World Data 製品のデータに基づいた分析により、米国および世界におけるライム病の個別化医療に対するアンメットニーズを明らかにしました。同時に、リアルワールドエビデンスや患者登録における観察研究は、高い治療効果を生み出すための最適なアプローチを決定するための無作為化比較試験を補完することを明らかにしました。

 

コードが記載されている治療法の一覧は、こちらをご覧ください。