国別、機関別で見るノーベル賞後のiPS細胞研究動向

国別、機関別で見るノーベル賞後のiPS細胞研究動向

 

2020年4月

 シニアプロダクト・コンサルタント 安藤 聡子

 

iPS細胞に関する国別の日本の論文数はアメリカに次いで二位であり、多くの論文発表を行っている有力な研究機関もアメリカ、中国についで三位と世界の中でも大きな存在感を示している。日本の論文全体の伸びが約1.1倍にとどまっているのに比較すると、8年間で2倍以上の論文発表は、日本の学術研究の中で、iPS細胞研究がより活発に行われていることを表しているとも言える。

 

目次

世界のiPS細胞に関する論文数の推移

国別の論文数から見るiPS細胞研究動向

iPS細胞で存在感を示す研究機関

まとめ

 

世界のiPS細胞に関する論文数の推移

iPS細胞の作成は、2006年にCell誌に発表された。この論文は直後から注目を集め、iPS細胞研究は2012年のノーベル医学生理学賞を受賞している。ノーベル賞後も研究は活発に行われ、2012年からの8年間で発表された論文は延べ約11,000報 に達している(図1)。この8年間で、iPS細胞研究について1年間で発表される論文数は987報(2012年)から1,834報(2019年)と倍増しており、世界全体の同期間の論文数の伸びが1.3倍であることを考えると、この伸びは、iPS細胞研究への世界の注目度の高さを表すものと言えるだろう。

 

国別の論文数から見るiPS細胞の研究動向

iPS細胞研究について2012年から2019年に発表された国毎の論文数を見てみよう。世界90か国以上の国と地域からの研究発表があるが、上位10か国が関与している論文だけで、全体の約86%を占めていた。その中でも米国の存在感は突出しているものの、日本は続いて二位につけている(図2)。
さらに国別の論文数の伸び率に注目すると、米国が2012年に対する2019年の論文数が1.56倍に対して、日本は2.09倍となっていた。これは日本全体の論文の伸び1.1倍の二倍近い値で、過去8年間の日本の学術コミュニティのiPS細胞研究への注目度の高さと期待の大きさが見て取れる。

 

iPS細胞研究で存在感を示す研究機関

特定のトピックの研究動向を把握する際には、最先端の研究をリードできる研究機関数も重要であろう。この観点から見ると同期間で50報以上論文を発表している研究機関は世界全体で145機関あった。この145機関を国別に見てみると、米国が55とやはり突出しており、中国の16、ドイツ、日本の15と続く(図3)。加えて、これらの研究機関の中でも存在感の大きい世界の研究をリードしている200以上論文発表していたのは13機関。内訳は米国が7機関と、ここでも大きな存在感を示すが、日本は4機関(京都大学、東京大学、大阪大学、慶應義塾大学)とアメリカに次いでおり、他にはフランス、中国からそれぞれ1機関となっていた(表1)。

 

表1 iPS細胞に関する論文を200報以上発表した研究機関 (2012-2019) 2020年3月現在

 

なお、研究動向を考えるときに、「実用化の段階」の一つの考え方として企業からの研究論文数の動向は一つの指標となる。この観点で見ると2012年の30報から2019年は76報と2.5倍になっていた。論文数はまだまだ少ないが、産業界からの期待がうかがえる。日本の企業からも製薬企業だけでなく味の素や日立製作所などからも論文発表があった。

 

まとめ

山中教授がノーベル賞受賞された2012年から2019年までの8年間におけるiPS細胞の研究動向について、国別、研究機関別の観点から見てみた。日本の研究について見ると、総論文数などの観点からはどうしても海外に比べ伸びが小さいが、iPS細胞研究については世界全体の伸びを超えた論文発表がされていた。機関別で見ると、京都大学は論文数およびインパクトの高い高被引用論文数ともにハーバード大学に次いで世界第二位として最近でも高い存在感を示していた。

※日本経済新聞朝刊(2020年4月20日)9面で 「iPS研究 日本健闘」が取り上げられています。論文データはクラリベイトのWeb of Science core collectionのデータを使っています。

 

記事中のCell誌の論文は以下より読めます。

Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors
KazutoshiTakahashi,ShinyaYamanaka (Cell, Vol.126, Issue 4, 2006, p663-676)

またこの論文は、「平成」のブレークスルー論文として発表しております。

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【データソース】 学術文献・引用索引データベース「Web of Science® Core Collection」

Web of Science Core Collection は、自然科学、社会科学、人文科学の広範にわたる世界の主要学術誌に掲載された学術論文の書誌事項、および引用文献情報を集録しているデータベースで、2020年現在、1900年以降に出版された7,700万報以上の論文を収録しています。収録情報はすべて査読済みの情報源から収録された信頼性の高い情報で世界中の大学・研究機関・政府機関・企業で活用されています。論文に記載されたすべての著者所属機関や著者所属機関の索引、2008年以降の研究助成情報を収録しています。急増する学術情報の中から、被引用数が一番多い、利用回数が多いなどの注目論文を簡単に探せるなど業務効率にも資すことができます。

クラリベイト引用栄誉賞:クラリベイトでは、毎年ノーベル賞クラスと目される研究者を発表しております。山中伸弥教授は2010年受賞です。過去の一覧はこちら

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