がん免疫学のブレイクスルー:個別化医療からがん微小環境の調節まで

JOAN TUR
Life Sciences Editor, Cortellis
Clarivate

 

英語原文サイト

本記事は英文ブログを日本語に翻訳再編集(一部追記を含む)したものです。本記事の正式言語は英語であり、その内容・解釈については英語が優先します。

 

欧州がん研究協会(EACR)は、欧州および世界で最も先進的ながん研究を探求しています。クラリベイト・ライフサイエンス・エディターのジョーン・ターは、最近開催されたがん免疫学のイベントから得られたトップ3のトレンドと、がん治療の未来への影響をレビューします。

 

パンデミックの影響で複数の治療分野で臨床試験が遅れているにもかかわらず、新しいがん免疫学のアプローチは着実なペースで進歩し続けており(図1参照)、がん患者の多くのアンメットニーズをサポートすることが期待されています。

2月に世界各地で開催された第3回「EACR – Defence is the Best Attack」会議では、個別化医療の活用、がん微小環境の調節、新たな治療ターゲットの発見などがテーマとして取り上げられました。

ここでは、クラリベイトのがん免疫学の専門家が会議でトラッキングしたハイライトをご紹介します。

 

 

図1. 安定したペースで進歩するがん免疫治療法

出典: Cortellis Competitive Intelligence

 

 

脳脊髄液中のDNAは、脳腫瘍への対応を評価するバイオマーカーとなる

脳腫瘍は、がん免疫療法の効果が全体的に堅調であることを示す顕著な例外であり、チェックポイント阻害剤に反応する患者はごく一部にすぎません。がん微小環境から得られたデータは、最も有益な治療法を選択し、患者のアウトカムを改善するための個別化医療アプローチに利用できますが、脳腫瘍はその発生部位により、生検を採取するためには侵襲性が高く、難易度が高い外科手術が必要となります。

Joan Seoane(VHIOおよびMosaic Biomedicals)は、脳脊髄液に含まれる循環腫瘍DNA(ctDNA)をリキッドバイオプシーとして用いる、より安全で侵襲性の低いアプローチを発表しました。ctDNAは、腫瘍の微小環境にある免疫細胞を含む腫瘍内の細胞から排出され、検出可能なCSFに放出されます。この手法により、免疫細胞の状況に関する基本的な情報が得られるため、免疫療法の効果の可能性を予測したり、治療に対する患者の反応をリアルタイムで評価したり、薬剤開発のための潜在的な新規ターゲットを発見することが可能になります。

 

 

Myc阻害剤で腫瘍の免疫逃避を防ぐ

Peptomyc社のSílvia Casacuberta-Serra氏は、広範囲のがんで発現が低下し、しばしば侵攻性の高い腫瘍に関連するがんタンパク質Mycを阻害する細胞貫通型ペプチド治療薬Omomyc(OMO-103)の前臨床データを発表しました。

Mycは、その阻害により腫瘍細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを促進することから、抗がん剤のターゲットとなる可能性があることが古くから知られています。今回の前臨床試験では、Omomycを用いてMycを阻害することで、腫瘍の免疫逃避のメカニズムも阻害することが初めて示されました。男女ともに2番目に多いがんである非小細胞肺がん(NSCLC)のモデルマウスにおいて、OmomycによるMyc阻害療法は、腫瘍の負担を軽減し、腫瘍部位への免疫細胞の動員と活性化を促進しました。また、がんの駆動変異にかかわらず同様のデータが得られたことから、免疫刺激効果は腫瘍の変異プロファイルに依存しないことが確認されました。

 

 

乳がんの転移を治療するための標的となりうる好酸球

乳がんの死亡率の大半は、腫瘍の転移の結果であると言われています。Sharon Grisaru氏(テルアビブ大学)は、通常はアレルギー反応に関連する免疫細胞の一種である好酸球に焦点を当てて発表を行いました。最近では、乳がん患者の肺がん転移のほぼ95%に好酸球が存在することから、好酸球が抗がん作用にも関与していることが示唆されています。

研究チームは、乳がん由来の肺転移モデルマウスを用いて、好酸球がCCR3非依存的な経路を介して転移巣に積極的に集められることを示しました。また、好酸球を減少させると腫瘍量が増加することから、好酸球の抗がん作用における重要性が示されました。

しかし、これらの抗がん作用は好酸球自身が直接行っているわけではないようです。好酸球はまず、腫瘍の微小環境に存在する一連の因子(IFN-γやTNF-αなど)によって活性化され、CXCL9/10を分泌し始めます。そして、これらのシグナルに引き寄せられた細胞傷害性のCD8+T細胞が、腫瘍細胞を直接攻撃します。これらのデータを総合すると、がんの好酸球を標的としたさまざまな新しい治療法の可能性の扉が開かれることになります。

 

詳細は、Cortellis Competitive Intelligence™ユーザーがアクセス可能なレポートをご覧ください。

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