G20諸国の論文分析から見える科学と経済の意外な関係

 

G20諸国の論文分析から見える科学と経済の意外な関係

 

Web of Science 事業部
シニア・マネージャー 中村優文

以下の2つのグラフは非常によく似た傾向を示している(図1、2)。1980年から一貫して首位で牽引しているアメリカ、2000年代中盤から急速に増加し、2番手に位置する中国、そして90年代後半から一貫して横ばいを続ける日本。これらはG20各国の論文数の推移とGDPの推移を表したグラフである。2018年の論文数、GDPの順位を見ると、多少の差異は見られるものの、上位国の顔ぶれや、インドやブラジルのような新興国の位置づけも類似していることが分かる。

日本の論文数およびGDPの増加率・成長率はさらに興味深い。高度成長期を経た80年代、日本の経済成長は5%前後で推移し、90年代に入ると低い水準の低成長時代へと推移し、現在に至るまで続いている。一方、論文数の増加率を見ると、80年代は同様に5%を超える高い水準で成長していたが、90年代後半から低下し、2000年代にはGDPと同じく低成長時代に入っている。論文数がGDPに少し遅れて低成長時代に入っているのが特徴的である(図3)。

昨今、日本の科学研究の相対的な低迷がいたるところで取り上げられ、その大きな要因として大学の運営の非効率性などが挙げられているが、ここで例に挙げた経済指標の推移との類似性を見ると、科学のパフォーマンスは必ずしも学術界だけの問題ではなく、経済を含めた日本の社会全体の構造的な要因もはらんでいるのではないかとの仮説が浮かんでくる。

仮説の検証および要因の究明はより詳細な分析が必要であるが、このデータが日本の科学・研究力の向上の本質的な議論の一助になれば幸いである。

図1 論文数注1【左】とGDP(名目・ドル)【右】の推移(赤の太線が日本)

 

図2 2018年の論文数【左】とGDP(名目・ドル)【右】(アメリカを1として指数化)

 

図3 日本の論文数とGDP(名目・円)の成長率(増加率)の推移注2

注1:論文数の数え方には、整数カウントと分数カウントがある。整数カウントでは国際共著でも重複してカウントするため、イギリスやドイツのように国際共著論文が多い国では論文数の増加傾向が見られる。一方、分数カウントでは1報の論文を按分して数えるため、国際共著の多寡は補正され、イギリスやドイツと日本との論文数の差は縮まる。なお、本稿ではすべて整数カウントにより集計をしている。論文のカウント方法についての詳細はこちら。

注2:論文数の1996年に見られるピークは、論文数の母数となるデータベースWeb of Scienceの収録レコードが大きく増加(前年比13%増)したことによる。Web of Scienceの収録レコード数は年によるばらつきはあるものの、1980~2018年は平均して約4%で増加しており、世界のGDP成長率とほぼ同水準である。

【データの出典】
論文データ:InCites Benchmarking
・分野スキーマ:ESI
・ドキュメントタイプ:Article、Review
GDPデータ:International Monetary Fund, World Economy Outlook Database
・種類:名目GDP
・通貨:USドル


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