臨床試験の遅れが、製薬会社が進化するチャンスとなる

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本記事は英文ブログを日本語に翻訳再編集(一部追記を含む)したものです。本記事の正式言語は英語であり、その内容・解釈については英語が優先します。

 

COVID-19は臨床試験のスケジュールを狂わせ、数十億ドルの売上予測を危険にさらし、患者への救命治療の提供を遅らせています。この分析は、Decision Resources Group, part of Clarivateのリサーチ&インサイト担当シニアディレクターであるGarima Kaulと、CIRSのエグゼクティブディレクターであるJamie Munroによるもので、臨床試験の遅れが製薬会社にもたらす影響を調査しました。最も大きな打撃を受けているのはどの分野で、製薬会社や規制当局はどのように新しい仕事のやり方に適応しているのでしょうか?

パンデミックは臨床試験に大きな影響を与えており、1,356件の試験(産業界および非産業界がスポンサーとなっている試験)1 がCOVID-19による遅延*を報告しています。新しい分子を研究室のベンチから病院のベッドサイドまで運ぶための累積コストは平均20億ドル以上にのぼり、COVID-19に関連したこれらの試験の遅延は、将来の製薬会社の研究開発予算と発売スケジュールにとって潜在的な脅威となっています。さらに、開発中の新しい治療薬を患者さんがより長く待たなければならない可能性があり、製薬会社は新しい仕事のやり方に適応しなければならないことを意味しています。

 

パンデミックによる臨床試験の遅れにより、約600億ドルが危機に瀕しています。

 

図1. COVID-19の影響を受けている臨床試験フェーズ

データ出典: Cortellis Trial Intelligence, DRG Company and Drug Insights, DRG Disease Landscape and Forecasts

 

上位30社のうち数社が、第2四半期末の報告において、少なくとも何らかの遅れがあるとの報告をしています。ファイザー、ノバルティス、ロシュ、武田薬品、ノボ・ノルディスク、BMS、ギリアド、イプセンは早期の遅延を公表しました。ベーリンガーインゲルハイム、アステラス、ルンドベックは、臨床プログラムの遅れを明確に報告しています。

 

図2. COVID-19により影響を受けた臨床試験数が10以上の企業

データ出典: Cortellis Clinical Trials Intelligence, DRG Company and Drug Insights, DRG Disease Landscape and Forecasts

 

規制当局の支援にもかかわらず、臨床試験は依然として多くの課題に直面しています。

ロックダウンや検疫、渡航制限、サプライチェーンの寸断、治験責任医師の再配置、COVID-19の治療法やワクチンへのシフト、患者の不安など、多くのパンデミック関連の要因が試験を混乱させていると考えられています。

この間、試験参加者の安全を念頭に置きながら、規制当局はパンデミック関連の課題に対処するための支援と柔軟性を提供し、非常に柔軟で現実的な対応をしてきました4-10

実施機関は、試験参加者の安全性を優先するとともに、クリニカルプラクティスのコンプライアンスを守り、試験の完全性を維持し、除外・包含基準を満たした参加者のみが登録されるようにして、リスク・ベネフィットならびにリスク軽減計画を評価する必要があります。

 

COVID-19期間中に規制当局が臨床試験の支援と柔軟性に対して提供してきた方法:

  • リモートコンサルテーションと試験モニタリング
  • デジタルセンサーやテレヘルスの採用など、テクノロジーの柔軟な活用
  • プロトコル逸脱と修正の認識
  • 安全なドロップシッピングを含む多様な配送アプローチ
  • オフサイトでの分散化されたデータ収集
  • 参加者モニター訪問の回数と種類の変更

 

図3. 新しい方式の採用後におけるパンデミック関連の課題

データ出典: Cortellis Clinical Trials Intelligence, DRG Company and Drug Insights, DRG Disease Landscape and Forecasts

 

すべての治療領域にわたる試験が影響を受けている

すべての主要な治療分野で、パンデミックの影響による臨床試験の遅れが見られました。オンコロジー試験(27%)が最も影響を受けましたが、これは進行中の試験の中で最も多いという事実と一致しています。

 

図4. COVID-19の影響を受けた試験の上位10の治療分野

データ出典: Cortellis Clinical Trials Intelligence, DRG Disease Landscape and Forecasts, Cortellis Clinical Trials Intelligence

 

患者募集の問題が臨床試験の遅れの主な要因

 

図5. 製薬会社上位30社におけるCOVID-19による試験遅延の原因として挙げられた理由

データ出典: Cortellis Clinical Trials Intelligence

 

遅延は注射剤に対する臨床試験の大部分(約 60%)と、遠隔投与可能な治療法(例えば、経口、眼科、吸入器を介した治療法)に対する臨床試験の 5 件中 2 件に見られました。

 

 

影響を受けた臨床試験の79%は50施設未満で実施され、半数以上は10施設未満で実施されていました。

 

図6. 実施試験施設数別にみた影響を受けた試験数

データ出典: Cortellis Clinical Trials Intelligence Cortellis Clinical Trials Intelligence, DRG Disease Landscape and Forecasts

 

製薬企業はこの機会を利用して、試験の実施方法を進化させることができます。

製薬企業においては初期の混乱が過ぎ、現在では臨床試験を軌道に戻そうとしています。影響の深刻度は、パンデミックの期間にも依存します。試験が再開される前に、製薬企業はこの時間を利用して重要な試験の優先順位を決め、利用可能なデータを文書化して分析する必要があります。試験が再開されても、登録された被験者が戻らない可能性があり、新しい被験者の募集が必要になることが予想されます。パンデミック中にIMPの保存期間を検証するための安定性データが期限切れや不足している可能性があるため、企業は再度製造する必要があるかも知れません。

バイオ医薬品業界がこの「ニューノーマル」に適応していく中で、従来の医薬品開発モデルが再開される可能性は低いと思われます。製薬企業が成功するためには、お互いだけでなく、テクノロジー企業との緊密な連携が必要になるかもしれません。また、革新的なツールを探求し、新しい業務に適応するために従業員のスキルアップを図る必要があるかもしれません。

新しい技術や考え方を統合することは容易ではないでしょうが、規制当局の支援や関与があれば、企業は勢いを取り戻すことができます。デジタル化、新しい臨床試験デザイン、リアルワールドエビデンスデータの利用、人工知能は、このプロセスを進化させ、患者のアンメットニーズをより良く満たし、アウトカムを改善するための革新的な方法を見つけるのに役立つでしょう。

 

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(*臨床試験遅延に関する情報はトライアルレジストリ情報からマニュアルで抽出)

 

  1. Cortellis Clinical Trials Intelligence as of July 27, 2020
  2. DRG Company and Drug Insights
  3. DRG Disease Landscape and Forecasts
  4. FDA Guidance on Conduct of Clinical Trials of Medical Products during COVID-19 Public Health Emergency. Available at https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/fda-guidance-conduct-clinical-trials-medical-products-during-covid-19-public-health-emergency
  5. Managing clinical trials during Coronavirus (COVID-19). Available at https://www.gov.uk/guidance/managing-clinical-trials-during-coronavirus-covid-19
  6. Guidance on the Management of Clinical Trials During the COVID-19 (Coronavirus) Pandemic. Available at https://ec.europa.eu/health/sites/health/files/files/eudralex/vol-10/guidanceclinicaltrials_covid19_en.pdf
  7. How COVID is reshaping global policy and what it means for market access, Executive Briefing, July 8,2020. Available at https://decisionresourcesgroup.com/downloads/how-covid-is-reshaping-global-policy-and-what-it-means-for-market-access/
  8. https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory/overview/public-health-threats/coronavirus-disease-covid-19/covid-19-whats-new
  9. The International Coalition of Medicines Regulatory Authorities (ICMRA) statement on Covid-19. Available at http://www.icmra.info/drupal/sites/default/files/2020-04/ICMRA%20statement%20on%20COVID-19_final%2027%20April%202020.pdf
  10. Centre for Innovation in Regulatory Science (CIRS) R&D Briefing 75. Available at https://www.cirsci.org/publications/cirs-rd-briefing-75-emergency-use-pathways-eups/