英語論文アブストラクトの執筆が上手くなる (続編)

文と文を論理的につなぐ方法

英語論文のアブストラクトを書く際、「因果関係」の表し方に悩む、という研究者の声をいただきました。「~のために、~である」や「~を一因として、~が起こった(と考えられる)」といった表現です。「~のために」を英語に訳そうとすると、「(なぜなら)~だから」を表す接続詞becauseやsinceを一番に思いつくかもしれません。しかし、この他にも、様々な表現方法があります。

例1: 無生物主語と動詞(他動詞cause、自動詞result from)で因果関係を述べる

「ディーゼル発電機を多数同時に使用したために、意図しない環境への悪影響が生じた可能性がある。」

△Because of the mass and simultaneous use of diesel generators, unintended negative environmental impacts may have occurred.

△Unintended negative environmental impacts may have occurred because of the mass and simultaneous use of diesel generators.

英文の欠点:because ofを使うと、「~のために」の部分が句として前に出てしまう。because ofの句を後ろに移動した場合でも、単語数が多くて読みづらい。

そこで、効果的な他動詞(cause)または自動詞(result from)を使ってブラッシュアップします。

■他動詞cause
○The mass and simultaneous use of diesel generators may have caused unintended negative environmental impacts.

■自動詞result from

○Unintended negative environmental impacts may result from the mass and simultaneous use of diesel generators.

タイトル:Techno-Economic Feasibility of Off-Grid Renewable Energy Electrification Schemes: A Case Study of an Informal Settlement in Namibia
Jun 2022 | ENERGIES 15 (12)

「ディーゼル発電機を多数同時に使用」と「意図しない環境への悪影響」のいずれも主語にできる表現力があると、前後の文脈の都合や筆者の意図に応じて自在に選べて便利です。後者は、クラリベイト社のデータベース『Web of Science』に収録された論文の表現です。時制はmay have resulted fromも可能ですが、現在形may result fromで「~が要因となっている」という普遍的現象として表すことも可能です。

例2: 主語をそろえて接続詞andでつなぐ、関係代名詞非限定用法でつなぐ

「蒸発は、水循環における主要な損失要素となるため、効率的に管理することが重要である。」

△Because evaporation is the major water-loss component of the hydrologic cycle, it is important to efficiently manage evaporation.

英文の欠点:接続詞becauseを使うと、「理由」を強調できる一方で、実際には因果関係が十分ではなく、読み手が理解しづらい場合がある。また、論文アブストラクトの第1文目といった場合には、読みづらさが増してしまう。

なお、この日本文を機械翻訳ツールDeepL(https://www.deepl.com/translator)に入力すると、上の例とよく似た次の英文が出力されました。「~なので」を表す接続詞Sinceは、Becauseよりも若干弱い因果関係を表し、ややカジュアルな表現で、文頭に来ることが多いのが特徴です。

機械翻訳の出力:
Since evaporation is a major loss component in the water cycle, it is important to manage it efficiently.
(DeepLで翻訳。2022年8月)

機械翻訳は、文法的に正しい英文を素早く出力してくれますが、出力結果に満足することなく、文を短く区切って、作成し直すことが大切です。明確性を高めるために、代名詞itの使用も控えます。複数の短い文が完成すれば、主語をそろえられないかを検討します。

文を短く区切る:
Evaporation is a major loss component in the water cycle.
It is important to manage evaporation efficiently.

複数文の主語を整える:
Evaporation is a major loss component in the water cycle.
Evaporation requires efficient management.

主語がそろったら、改めて文をつなぎます。単に接続詞andでつなぐことや、関係代名詞の非限定用法(, which)を利用してつなぐことで、因果関係を「やわらかく」表せます。接続詞andでつなぐ場合に主語を繰り返す必要はありません。

接続詞andでつなぐ:
Evaporation is a major loss component in the water cycle and requires efficient management.

関係代名詞非限定用法でつなぐ:
Evaporation, which is a major loss component in the water cycle, requires efficient management.

データベース『Web of Science』には、次の英文が収録されていました。前半と後半の文の流れを助ける副詞thus(したがって)が使われ、読みやすさが増しています。
また、the major water-loss componentには定冠詞theが使われ、「これこそが、主要な損失要素」と強調しています。なお、機械翻訳に基づく先の英文では、不定冠詞aが使われ、「主要な損失要素はいくつかあり、そのうちの1つ」という表現でした。

Evaporation is the major water-loss component of the hydrologic cycle and thus requires efficient management.
タイトル:Utility of Artificial Neural Networks in Modeling Pan Evaporation in Hyper-Arid Climates
May 2020 | WATER 12 (5)

2つの例をとりあげましたが、このように、英語で因果関係を表す表現は沢山あります。技術英語論文では、「人」ではなく「無生物」を主語に使い、まずは各文を短く作成すること、そして、作成した複数文の主語を整え、文同士を適切につなぎます。このような複数ステップを経て、英文を完成させることで、読みやすく、かつ読み手に情報が素早く届く英文を書くことができます。英文ライティングの技法を習得すれば、複数文の間で情報が飛んでしまうことなく、論理的に読める文書を書くことに役立つでしょう。

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